楽団略歴!
2人が出演した弦巻楽団の過去公演の思い出を語りながら、深浦佑太さんと村上義典さんの「楽団略歴」を振り返ります!
★村上義典、弦巻デビュー(2009年)
深浦 義典くんが弦巻楽団に関わり始めたのはどの公演から?
村上 2009年、間奏曲#1『こんにちは母さん』という作品からです。間奏曲とは、今の弦巻楽団演技講座の前身となった企画で。
弦巻 弦巻楽団として、はじめてのワークショップ公演だった。
村上 ワークショップ公演だったんだけど、実は僕はこのワークショップ受けていないんですよ。当時僕は学生で、丹治泰人さん(現yhs休団中)が立ち上げた団体のメンバーに所属していたんですが、丹治さんが「俺たちもいろんな役者さんに助けてもらうんだから、よそで人が足りないときは助けにいかなきゃだめだ!」と言って。2人で人手不足の弦巻楽団に初めて出演することになったんです。そしたら直前になって丹治さん、「悪い。俺仕事で出られなくなった」って。
深浦 (笑)
村上 結局僕一人で出ることになり、この時に初めて弦巻さんにお会いしました。その次が、#9『果実』です(2009年10月)。弦巻さんに「ちょっと手伝ってほしいんだ。少し出演してもらえたら」とお誘いを受けて、稽古初日に台本をもらったらまさかの梳々月桃太郎役だった。
深浦 主役じゃん。
村上 無茶苦茶ですよ。弦巻さんは昔から無茶苦茶。
弦巻 村上くんの、弦巻楽団本公演デビューです。その後大学もちゃんと無事卒業してました。弦巻楽団は学業の邪魔をしないということで有名な劇団なので。
#9『果実』のチラシと一緒に。
#9『果実』
★深浦佑太、弦巻デビュー(2011年)
弦巻 村上くんは卒業後就職をするのですが、2011年9月、再び出演してくれることになります。#15『ラブレス』です。初演は2000年にヒステリック・エンドで上演した作品で、群像劇です。
村上 これはすごく面白い作品だった!
弦巻 『ラブレス』は、深浦くんの弦巻楽団デビュー作でもありますね。
村上 『ラブレス』の深浦くんはすごかったですよ。男4人の同級生の物語で、4人は過去に後悔をしている出来事があるんだけれど、とある神父に過去に戻れる井戸を案内されるんです。その神父を演じたのが深浦くん。深浦くんの神父は、まあ気が狂っていて。最高でした。
深浦 (笑)
弦巻 ベタ褒めですね!
村上 いやー最高でした!まだ忘れられない、あのオープニング。「こんなはずじゃなかったーっ!」ってやつ!
深浦 見えない敵と闘ってたんだよ。
村上 最後の決め台詞なんだっけ!
一同 「ちがーーーーうっ!!」(爆笑)
弦巻 稽古の段階で、いいなぁ面白いなぁと思って、それ本番でもやってねって言ったら、本番微妙に変えてくるんだよ!
村上 そうそうそう!
深浦 その時はソウルだけで演技してた時代で、自分が何を稽古で出したかわかってなかったんだよ。
村上 『ラブレス』の最後は、神父さんが首を絞められて殺されるんですけれど、あのときに笑いながら「グヒャッ」って声を出してたでしょ。
深浦 出してました?
弦巻 そういう小細工ね、昔からするんだよ。
深浦 覚えてない。
村上 最高でしたよ!あのときに、深浦佑太はすごいなって思った。
深浦 ありがとうございます。演技に熱入って、村上くんの小道具ぶっ壊したけどね。
村上 青木玖璃子さん(yhs)が一生懸命作ってくれたやつね。最高の芝居でしたよ。
弦巻 ライブだったねー。
村上 個人的には、『ラブレス』は弦巻さんの最高傑作だと思っています。
弦巻 ありがとうございます。僕も、『ワンダー☆ランド』に次ぐ作品だなと常々思っています。
村上 今の楽団員の方々にも観てほしいなあ。小林エレキさん(yhs)もすごかったよね。
弦巻 小林エレキさんは、唯一2000年の初演にも出てくれていました。2011年の再演では配役が変わったんだけれど、とてもよかったですね。
村上 みんなすごかったよね。クラアク芸術堂の前身・劇団アトリエから4人、劇団パーソンズから3人出演していた。今でこそ演劇シーズン参加劇団だけれど、当時はまだ立ち上げ1~2年目とかだった。
弦巻 シビアな現場だったと思うんだよね、バトルロワイアル的な。『ワンダー☆ランド』よりも過酷だったんじゃないかな。
村上 小佐部くんが役者で出ていたんだから!
弦巻 すごくよかった!楽太郎くんも、とってもよかった。彼は今は演劇の舞台にあまり立っていないですけれど、弦巻楽団の最初の6年くらい、ずっと支えてくれた方で。本当ブレない役者さんで僕は大好きなんです。また出てほしいなと思っているんですけれどね。
#15『ラブレス』のチラシと一緒に。
#15『ラブレス』出演者
菊地英登(劇団イナダ組)
小林エレキ(yhs)
深浦佑太(ディリバレー・ダイバーズ)
村上義典
青木玖璃子(yhs)
原田充子(Real I’s Production)
楽太郎
山崎孝宏
小佐部明広、小山佳祐、柴田知佳、小池瑠莉
(以上、劇団アトリエ)
阿部星来、佐藤愛梨、能登屋南奈
(以上、劇団パーソンズ)
#15『ラブレス』
若かりしお二人。
★2012〜2016年
村上 次は、深浦くんが主役をやった、#17『果実』ですね(2012年9月)。
弦巻 NOLINEという劇団(NEXTAGEの前身)の舞台を観た帰り、深浦くんと雪の中歩いていて、オファーをしたんです。
深浦 「何かを再演したいんだけれど、好きな作品はある?」って聞かれて、僕は『果実』を挙げたんです。村上くんが出演していた #9『果実』(2008年)がすごく面白かったから。
弦巻 僕も『果実』はやりたいなと思っていたところだった。その後も、4年おきに再演している作品です。
村上 この時は、まさか後に主演ダブルキャストになるとは思っていなかったよね……(#25『果実』2016年、詳細は後述)。
弦巻 そして、#22『ナイトスイミング』です(2014年11月)。この作品で、若手演出家コンクールの優秀賞を受賞し、最終審査のための作品をもう一本作らなくちゃいけなくなった。そのまま深浦くんに登板してもらったのが、『四月になれば彼女は彼は』でした(2015年3月、東京で上演)。
深浦 新作なのに、制作期間短かったんだよなあ。二次審査通ったから東京に審査用の持っていかなきゃだめだって聞いて、岸田國士の『紙風船』を原作にした作品を作った。この作品で、最優秀賞を受賞し、後にツアーもすることになります。
弦巻 こうして、深浦くんとは1年に1本は作品づくりを共にするようになります。どうでしたか、何か変化はありましたか。だんだん弦巻楽団や弦巻演出について読み取れることが増えたとか。
深浦 弦巻楽団に出させていただくと、新しい発見が必ずあるんです。自分のこれまでやってきた演技法に新しいものがプラスされたり、方向転換が起こったりする。
弦巻 ここから、さらにハイペースになっていきますね。深浦くんには、2016年3月に#24『サウンズ・オブ・サイレンシーズ』に出演してもらいました。ミニマリスティックというか、削ぎ落とした作品でした。そして、2016年に韓国ソウル公演も含めた『四月になれば彼女は彼は』の全国ツアーに出ます。
村上 やっぱツアーは勉強になった?
深浦 なったよ!韓国、三重、京都、東京、北九州。面白かったよすごく。長い期間、たくさんの場所で同じ演目をやりつづけることにすごく大きな意義があった。いかに新鮮さを保ち続けていくか。個人的にもアップダウンはあったし、手順をなぞっちゃったり、こなしちゃったり、そこをどう越えていくかという闘いがありました。
『四月になれば彼女は彼は』
弦巻 その次が、主演ダブルキャスト公演、#25『果実』になるわけですね(2016年8月)。
村上 きつかったねえ。
深浦 大変だった。
弦巻 もう4年前になるんですね、これも。濃かったですね。
村上 なかなかないですよね、主演だけダブルキャストで他は変わらないなんて。僕は2年くらい東京にいたんだけれど、札幌に帰ってきたらその2年の間に急に人気俳優になっていた深浦くんとダブルだったんだよ。来るお客さんみんな深浦ファンなんです。主演だったけど、アウェー戦だった。
深浦 そんなことないよ。
弦巻 あれ、3分の1くらいは俺のファンだと思っていたんだけど。
村上 相手役の塚本奈緒美さんも、深浦さんとは面識あったけど僕は初めましてから入っているし。
弦巻 そうだったんだ。
村上 深浦くんと車乗っているときに、弦巻さんからオファーを受けて、「いま『果実』のオファー来た」って深浦くんに言ったら、「え、俺も来てるよ」って。
深浦 そうだった(笑)
村上 え、なに、どういうこと!?って。
深浦 混沌としたね。
村上 ダブルキャストって知らさせるの割と後だったよね!?当時、どっちが主役・桃太郎をやるのかわからなくて、すごいヤダじゃーんってなった!
弦巻 よかったしょ、二人ともできて!
村上 そのパターン、想像していなかったよね!
弦巻 俺さ、よくないんだけど、もしダブルキャストって伝えたら断られちゃうんじゃないかって、臆病になっちゃって、言えなかったの。
深浦 言ってや!!!
村上 なんでちょっと可愛く言うの!条件は先に出してよ!!
弦巻 言えなくなっちゃうの。こわくて。
村上 今回の、『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』も、オファーをいただいたときに「深浦くんとダブルキャストじゃなければ良いです」って送ったくらいだもん。そしたら、「ダブルキャストではないんだよね」って。
弦巻 ダブルキャスト「では」ないんだよね。そんな思い出深い『果実』でしたね。
#25『果実』主演ダブルキャスト
#25『果実』主演ダブルキャスト
弦巻 その直後に、#26『裸足で散歩』で村上くんに主演をつとめていただきました(2016年11月、ニールサイモン作、青井陽治訳)。
村上 すごく苦戦したけど、すごく楽しかった。海外戯曲が初めてで、圧倒的に喋る量が多いことに必死になっていましたね。悔しさも残るけれど、今までやってきたお芝居と全然違う経験ができた。それから3年ちょっと経って、僕の中では改めて挑戦したいお芝居の筆頭になっています。
弦巻 村上くんは、既成の台本をちゃんとやれる役者だなとずっと思っていました。個人的には、自分の台本をやるよりも既成の台本をやる方が難しいと思っていて。自分の台本だと、その人に合わせて書いたり、演出を変えたりすることができるんだけれど、既成の台本だとそういうことができないからね。
村上 僕の能力じゃ、翻訳の青井陽治さんが意図したものを全部捉えることが難しいという負い目がった。なるべく台本通りの言い回しや言葉を大事にしようというと取り組みました。アフタートークでは、青井陽治さんにお褒めの言葉をいただけて、すごい嬉しかった。
弦巻 またトライしたい作品ですね。
★2017〜2019年
弦巻 続いて、2017年2月、演劇シーズン参加作品の#27『君は素敵』。日替わりゲストとして短く出演していただいたので、2人が絡むことはなかったですね。
村上 楽しかったね。
深浦 楽しかった。
弦巻 2017年7月に、#28『ナイトスイミング』を再演し、2人とも出演していただきました。2014年の初演も、2017年の再演もかなり評判が良くてですね、ありがたいです。
村上 このあたりから、舞台上で深浦vs村上の対立関係のパターンが出てきますね。
深浦 理知的な義典くんと、苦悩する僕、っていう役柄が多くなってくるよね。
村上 渡部倫子さんが振付として入ってくださり、身体表現の練習したのを覚えています。宇宙空間の動きを表現するために、小道具の箱をすごくゆっくり動かしたり、基礎トレーニングもアップの時間に欠かさずやっていた。
弦巻 基礎トレーニングは大きかったよ。自分が演出した作品なのに、サンピアザ劇場の時間がスローに感じる瞬間あったもん。
深浦 僕は義典くんにお礼を言いたい。クライマックスで、2つに分かれた宇宙船の向こう側に僕が行こうとして、義典くんが全力で止めるシーン。僕は義典くんに全身全霊の信頼を置いて、体重をかけた。
村上 演技なのに、ちょっと本気の力を込めてくる。
弦巻 見せかけでいいのにね!
村上 膝と腕を震わせながら止めましたよ。
深浦 僕も抑えたつもりだったんだけどなあ。
弦巻 感情が走ってしまうタイプ。
村上 信頼関係ですよ。
#28『ナイトスイミング』
弦巻 2017年9月から10月にかけて、『サウンズ・オブ・サイレンシーズ』の再演ツアーが始まります(札幌、三重、大阪、北九州)。村上くんはこの作品やってみたいですか。
村上 やりたいです!
深浦 またダブルキャストになっちゃうよ!
弦巻 4人しか登場しないから、出演者総入れ替えのダブルキャストもできるよね。いろんな4人でやってみたい。そして次に、これは本公演ではないけれど触れずにはいられない公演、演技講座発表公演『ハムレット』に、2人と遠藤洋平くんにも出演してもらいました(2018年3月)。
村上 弦巻三銃士。
弦巻 村上さんは、主役・ハムレット。遠藤くんは、ポローニアスという、ヒロイン・オフィーリアのお父さん役。出番は少ないけれど、ハムレットの対立軸となるフォーティンブラスに深浦さん。
村上 『ハムレット』も、再挑戦したい作品の一つです。海外戯曲はもう一回やりたいな。
弦巻 深浦くんは、2018年6月に新作公演#30『歌は自由を目指す』に出演してもらい、同年8月に演劇シーズン参加作品#31『センチメンタル』に2人に出演してもらいます。
村上 また僕らは対立関係の配役だったね。
弦巻 そして2019年は、村上さんに『私たちが機械だった頃』に出演してもらいました(7月)。劇中にお客さんにディスカッションをしていただくという、新しい取り組みでした。
村上 これ楽しかったですね。
弦巻 楽しかったって今は言ってるけど、稽古中はずっと「嫌だ嫌だ」って言ってたよ!
村上 自分の健康データを管理してくれる機械を身体に埋め込むかどうか、という議論がテーマで、エチュードから劇を作っていきました。僕は入れたいという夫の役で、入れたくない入れさせたくないという妻役の塚本奈緒美さん。エチュードだから、毎日、台本に書かれていない自分から出てくる言葉で、夫婦喧嘩をするんですよ。けっこう精神すり減らすんです。苦しい作業でした。
弦巻 そして、2019年8月、#33『ワンダー☆ランド』になります。長い。語り尽くせない。村上くんとの旅は2009年から。深浦くんとは2011年から。
村上 こうやって振り返ると、僕はけっこう再演が多いですね。
弦巻 そう、何故か村上くんにオファーをするときは、再演だったり既成の台本だったり、すでに形あるものなんだよね。書き下ろしがない。
#33『ワンダー☆ランド』
村上 僕らは、弦巻さんの昔の作品(『ワンダー☆ランド』『ラブレス』『果実』など)から、比較的新しい作品(『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』『私たちが機械だった頃』『サウンズ・オブ・サイレンシーズ』など)まで、いろいろ経験させてもらっていますが、台本の書き方の変遷を感じます。昔の作品は、1つの台詞のやりとりで1つの情報が交換され共有されて、物語が展開していくという形でした。最近の作品では、1つのブロック(場面)で1つの情報しか共有されていないものも多いな、と感じます。そうじゃないですか。
深浦 そうだと思います。「状況」を描くようになったんですかね。
弦巻 そうそう。そのやり方で書いた極めつきが『サウンズ・オブ・サイレンシーズ』でした。すごく平たく言うと、最近書く台本では、「大事なこと」は台詞にしていないんです。メッセージの核心は言葉にしない。無駄なパスを4、5往復させることを大事に描くようにしています。情報を交換するよりも、どう「交換したふり」をしているかの方が大事っていうか。僕には、人間同士のコミュニケーションはそう見えている。それが表れているのかもしれません。
村上 なぜこれに気づいたのかというと、最近の弦巻さんの台本は、台詞が覚えづらい。
深浦 『ワンダー☆ランド』のときの方が覚えやすかった?
村上 覚えやすい。
弦巻 登場人物は、相手役に聞かれたことに答えているんだよね。
村上 聞かれたことに対して情報を上乗せして返す。でも、最近はそうじゃない。
深浦 しゃべりたいことを好き勝手しゃべっている感じだよね。
弦巻 昔は「言い方」を考えていたけれど、「言い方」だけじゃだめだって思うようになってきている。人間は言いたいことを言いたい時に喋っているんだけれど、大事なのは、どんな風にそれを言ったかよりも、「そんな言い方になるであろう身体と意識の流れ」があるということなんだよね。それを持っているかどうか。昔は、物語を進めるために、情報を展開させるための台詞を書いていた。でも、だんだんその書き方よりも面白くて豊かなものがあるんじゃないかって思って、最近の書き方に変わってきている。そういう意識は、日本の演劇界で持っている人は割とたくさんいて、たわいのないやりとりや日常そのままの台詞で書かれている脚本も増えてきているんだけれど、それも、僕個人的にはわざとらしく見えてしまって。その塩梅の難しさが課題かな。どういう語り口を自分の中に見つけていこうか。できすぎた物語も嘘くさいんだけれど、物語になる前のグズグズした状態のものを見せるのもわざとらしいというか。「あえて虚構をつくる」ことをどう踏まえるか、ということなんだけれど。やっぱり、俳優はそういう脚本家の葛藤を感じるものなんだね。
★2020年
弦巻 4年ごとに再演している『果実』ですが、前回が2016年でしたので、今年で4年目になります。
深浦 お。
弦巻 これは、何かあるかもしれませんね!
村上 どっちにオファーがくるんだ。
深浦 おいおいおい。
村上 今回は、オファーが来てもお互い黙っとこうね。
弦巻 こんなところで。深浦さんと村上さんの二人芝居、#35『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』お楽しみに!