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執筆者の写真弦巻楽団

忘れられない夏が来る

随分と間が空いてしまいました。御無沙汰での登場です。代表です。


いよいよ次の日曜日、9日から『果実』の再演が始まります。

注意を払いながら、出来る限りの対策をとってお客様をお迎えします。

劇団で行っている感染症対策についてはこちらで公開しております。

今回はお客様の観劇にも感染症予防対策へのご協力をお願いしております。

併せてご確認ください。


弦巻楽団#36「果実」劇場公演へ向けての

新型コロナウイルス感染防止対策について






5回目の『果実』になります。

2003年の初演時は、まさかこんな長い間再演し続けるとは考えてませんでした。17年です。じゅうななねん!新生児が高校二年生になる時間です。もう一度言います。じゅううなああなああああねええええん!


再演を重ねることで作品が磨かれてきた実感があります。

そんな実感の存在に気がつけたことが、なにより大きな発見です。


8年前から桃太郎を演じている深浦佑太も、4年前からヒロイン杏を演じている塚本奈緒美も、これまでとは違った進化した演技を稽古場で見せてます。お父さん役の温水元も新たな表現形態を築きながら稽古に励んでいます。

今回初参加のお母さん役の澤里有紀子、ファンキーなドキュメンタリー作家・紅玉枇杷丸役の百餅(ひゃっぺい)も、初出演となる楽団員の3名も、刺激的な稽古を見せてくれてます。


これまでに既にご覧になった方も多い作品ですが、今回が決定版になる気がしています。

過去の上演で『果実』に携わってきてくれたたくさんの役者やスタッフの知恵と創造力が作品には宿っています。僕たちはそれをトレースしながら、線一本一本をなぞりながら、より良いフォルムへ、今手にしている筆で描けるより良い『果実』を探るように稽古を重ねています。






『果実』の舞台美術を4年ぶりにアップデートしてくれる藤沢レオさん、

そして今回初めて『果実』に音楽を書き下ろしてくださる加藤亜祐美さん、

照明が、音響が、様々な仕掛けを施してくれる舞台監督が、

『果実』を新たな作品へ、究極な形へ生まれ変わらせてくれます。


公演特設サイトで出演者インタビューが公開されています!




でも「決定版にするぞ!」という想いは再演を決めた一昨年?にはあって。

そうなる計算も予感も充分にありました。(だって、そう思うでしょ?!)

そのための準備も、宣伝に向けた色々なキャンペーンも頭にはありました。

そして、新型コロナウイルスがやってきます。


舞台を作りながら、舞台上のトラブルだけに対応していられる幸福な現場というのはそうそうありません。皆無と言っていい。大抵は舞台を行う、制作する、その段階に至る過程でありとあらゆるトラブル・アクシデントに見舞われます。

演劇を作ってきた24年、もっと言えば高校生の頃から含めて28年、もっと言えば初めて作演出をした中学2年生からの30年間(!)、舞台の外のトラブルに四苦八苦する人生だったと言えます。


でもこのトラブルは今までに全くないタイプのものでした。


それ以降、

3月末の“舞台に立つ”『リチャード二世』はシアターZOOの客席を30席ほどに限定して、上演を行いました。

緊急事態宣言が発令されてからは公演を延期し、様々な調整に奔走し、

札幌シェアターさんに『リチャード二世』、

北海道文化財団さんに過去公演『センチメンタル』の動画を提供し、

弦巻楽団HPに過去の上演戯曲を5作品公開し、

延期になった『出停記念日』のリモート稽古を活かしリーディングの配信を行い、

助成金の申請をし、

劇団活動を続けるためのクラウドファンディングを行い、

7月2日に延期となっていた『出停記念日』で札幌で約3ヶ月ぶりとなる観客を招いて劇場公演を行いました。客席数は50席以下に限定し、来場者に検温や消毒、連絡先の記入をお願いしました。






少しずつ、演劇でまた観客の皆さんと繋がれる状況を私たちなりに模索し、提案し、培ってきました。


なんでこんな状況下で上演することになってしまったんだ、という怒りを感じます。

新型コロナウイルスの発生自体を怒っているのではありません。

感染状況が広がったことに対する怒りでもありません。

政治の段階でもっと早期に有効な手が打てた筈なのにそれを怠り、いたずらに不安を増長させ、感染してしまった人、感染者が出た施設を対策が不十分だった悪の根源のように捉えさせる風潮を作ったことを怒っています。


一番最初にリンクを貼った劇団の感染症対策は、色々な施設や劇団の対策やガイドラインを参照にしています。その中で(文章に明記していませんが)一番肝に銘じようと思ったのはこまばアゴラ劇場さんの「万一感染者が出て、稽古・公演に中止を含む支障が出た場合も、感染者に責務を負わせない。」でした。


力一杯「最高の舞台です!絶対忘れられない夏になります!観にきてくださーい!!」と

おじさんなのにポカリスエットのCMのように叫びたい。

そのくらいの作品になっています。

「みんなで観にきてねー!!」とか

「何回も観にきてねー!!」とか

めちゃくちゃ言いたいです。

こんな意味で忘れられない夏になるなんて。


この状況下を無理矢理ポジティブに捉えるなら一点だけ、

「生の演劇の魅力」をいろんな人が考えたり、改めて発見した点があると思います。作り手も、観客も。

毎年のように共同作業している深浦くんや、温水さんにも、今回の再演で目指そうと提案したのはそういうことでした。


今、目の前で起きたことにしよう。


これまで何度も上演してきた作品です。たくさんの方に観てもらってきた演目です。台本はほぼ変わってません。細かい単語の修正だけです。

それを「今、目の前で起きたことにする」。アドリブで消化するのではなく。

稽古場では、毎回それが行われています。最初はそうできませんでした。

けれどこの一週間、ようやくその境地が見えてきました。





『果実』は喪失に関する舞台です。

なので「今、目の前で何かが失われている」が稽古の度に起きています。

演出ですが、自分だって切なくなります。身を切るような辛さもあります。

杏の寝顔を見ていると、胸が掻き毟られるような時もあります。


斬新な舞台でも、古典でも無いかもしれない。

17年前の初演も普遍的な作品を目指してはいませんでした。

覚えているのは、こんなモチベーションだけです。

「いつか忘れてしまうのなら、消えない傷をつけてやろう」


忘れられない2020年の夏です。

あるいは将来、辛さから逆にすっかり忘れてしまうかもしれません。


どうか健康状態に留意し、不安がなければ劇場にぜひ足をお運びください。


大変だったけどあの夏、忘れられない舞台に出会った。


数年後そう思い返せるような、そんな舞台にします。

劇場でお待ちしています。




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