大晦日がやってきました。なんだかんだとここ数年、このブログで一年を俯瞰するのが恒例になってます。目の前の公演を成功させることに夢中になるあまり、劇団のあり方や行く末の照準をついつい忘れがちな自分にとって必要な気もするので、ここでまた今年、2017年を振り返りたいと思います。
おかげさまで弦巻楽団としては2017年も高い密度で公演を重ねられました。これも駆け出しの劇団員4人と、キャリアだけはベテランの代表合わせて5人の劇団を支えてくれた出演者、スタッフの皆様、各地で尽力してくれた方々、そしてなにより、一つの言葉にはまとまりにくい『弦巻楽団』ならではの魅力を愛し、信頼し、劇場に足を運んでくれた沢山の観客の皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
劇団としては本公演を3回、そのうち演劇シーズン参加が1回。ツアー1作品。芸能鑑賞公演1回。特別公演の一人芝居を1作品。そして『演技講座』の発表公演として3公演。内2作品はシェイクスピア作品と言う充実のラインナップでした。
時系列で辿れば
2月 #27 『君は素敵』 (演劇シーズン2017冬 参加作品)
3月 演技講座「舞台に立つ」 『コリオレイナス』
6月 深浦佑太一人芝居 『一人舞台』
7月 #28 『ナイトスイミング』
8月 演技講座 『出停記念日』『火星から来た女の子』
9月 『サウンズ・オブ・サイレンシーズ』国内(札幌、三重、大阪、北九州)ツアー
11月 演技講座「舞台に立つ」 『リチャード三世』
となります。
沢山の出会いがありました。そして「再会」も多く有った一年だと振り返ると感じます。10年前の作品であった『君は素敵』をこうして再び上演できる機会を与えてくれた演劇シーズンに感謝を。この作品と再会できたことを何より喜んでいたのは自分です。さらに、その『君は素敵』に出演してくれたのが、10年以上前「劇団ひまわり」で自分の生徒であった土屋梨沙、と言う再会までありました。
『コリオレイナス』で高校を卒業し東京に旅立った佐久間泉真とも、夏の『ナイトスイミング』で(早くも)再会できました。20年越しに亡くなった筈の同級生と再会するこの物語に、相応しい再会だったと思います。
『サウンズ・オブ・サイレンシーズ』では各地で、昨年『四月になれば彼女は彼は』ツアーでお世話になった様々な方と再会ができました。
『リチャード三世』では、5年前「演技講座」が「ツルマキアーケストラ!!!」と言う名称だった時に参加してくれた菅原里保が再び参加してくれました。これもとてもうれしい再会でした。
そして、とても大きな再会だったのが『出停記念日』です。高校演劇戯曲選に収蔵されている、島元要氏による透明さが敷き詰められたこの名作の上演は弦巻の悲願でした。それを今年、ようやく果たすことができました。海のものとも山のものともつかない我々に直接お便りをくださり、快く上演許可を下さった島元氏に深く感謝いたします。
女子高生5人による些細な日常会話だけで構成されながら、彼らの孤独や不安を見事に描き切ったこの戯曲は、本当の意味の刹那さに溢れ、たまらなく胸をかきむしる名作です。いつか、相応しいメンバーが揃った時に、この戯曲を上演したい。ずっとそう考えてました。これも最初に出会ってから10年でした。
成果発表公演で拙い箇所もたくさんありましたが、とても良い空気が会場を通り抜けました。一陣の風のような作品の刹那を捕まえることができたんじゃないかと自負しています。稽古場での公演で、目撃してくれた数少ない観客の皆さんに感謝いたします。
こうした小さな(あくまで公開規模の話)公演まで決して手を抜かないのが弦巻楽団です。一公演ごとに挑戦や達成や発見に満ちています。見逃せないなあ。
再会だけじゃなく、ずっと参加してくれる方々への感謝も。
特に夏の『ナイトスイミング』『サウンズ・オブ・サイレンシーズ』と通して出演してくれた塩谷舞、温水元のお二人。両名とも初演に続いて両作に再出演してくれました。大きな改変が無いにも関わらず、作品として深化できたのはお二人の力や成長があったおかげです。
そしてなんと8月と11月の企画以外すべてに出演してくれた深浦佑太。
本当にどうもありがとう。お疲れさまでした。『一人舞台』は必ずどこかでまたやろう。
2011年の『ラブレス』以降の共同作業も、一つ到達点を見つけられた気がしています。弦巻は、勝手に。深浦佑太の違う顔や役者としての深化のためにも、そして劇団の新しい基準を打ち立てるためにも、来年は新しい/更なる共同作業の方向を見つけていきましょう。
新作もよろしく。
劇団としては団員が二人減り、二人増えました。
よちよち歩きですが、劇団としての体制を徐々に整えていきたいと考えています。
弦巻個人の仕事としては、
2月 脚本提供 『夢見るようなくちびるに』 長野県松本市 銀杏座
4月 演出 『ナイスコンプレックス』 劇団ナイスコンプレックス
6月 出演 『亀、もしくは…』ロシア公演 札幌座
12月 作・演出 『結婚しようよ』 苫前町 とままえ町民劇
がありました。
「セーブしていこうと思う」「断るがテーマ」と話していたのが今年の頭。並びを見てみれば「どこが!」と自分でツッコミを入れたくなります。それでも、自分にとって大切な仕事ばかりを厳選した結果です。『夢見るようなくちびるに』で始まり、『結婚しようよ』で終わったことが2017年を象徴しているようです。
度々書いていることですが、良い芝居を作りたいと思います。
良い芝居を作る、唯一無二の集団でありたいと考えています。この札幌で活動している意味のある集団でありたいと思います。
弦巻楽団の行く先はそこにあります。
目の前で見る価値のある瞬間を生み出したいと考えています。コメディでも、シリアスでも、実験的でも、オーソドックスでも、脱構築でも、ウェルメイドでも、「目の前で見る価値がある瞬間」を作ることが先決だと考えています。そのための作品選びであり、スタイルの模索であり、ジャンルの選択だと思ってます。なぜならどれだけ優秀でも、上手でも、「それは別の場所でも観れるよね」となっては本末転倒だからです。あるいは「それはこっちの◯◯でも代替可能だよね」とか。
ではどうしたら「目の前で見る価値のある瞬間」は手に入るのか。答えは一見簡単です。他人が真似できないことをやれば良い。そうしたら、代替不可能な「目の前で見る価値ある瞬間」にはなる、かもしれません。ただ、その道を選ぶと今度は「スペシャリスト」しか居場所のない集団になっていきます。いいじゃないかスペシャリストで。それが劇団としての成長だ。芸術としての、娯楽としての、文化としての水準を高めるとはそうした「一流」になることだ。そんな声がすぐに聞こえてきます。でもね、と自分は思うのです。
じゃあどうするのか。その逆もすぐに思いつきます。「一流」の逆、アマチュア性によるハプニングや、地域のオリエンタリズムを押し出すやり方です。素材の味を活かす、みたいなやり方です。それも悪くない。でも、反対する声より先に自分がそれではただ自堕落な見世物になる危惧を感じます。いいじゃないか自堕落で。それがその人間の本性なら。さらけ出すのが演劇だ。さらけ出すのが演技だ。んな訳あるか、と自分は思います。
どちらでもない道を選んだのが弦巻楽団です。
いえ、本当言えば「スペシャリスト」になって欲しいんです。それは「演技」のスペシャリストで、弦巻楽団の物語を紡ぐに必要なスペシャリストです。「目の前で見る価値のある瞬間」を生み出せるスペシャリストです。ただそれは、あえて言葉で区切れば現在札幌の演劇界で見られる演劇人たちの「スペシャリスト」とはずいぶんかけ離れた物差しで測られるスペシャリストです。演技です。
けして難しいことではありません。むしろ入り口はどんな演技の取り組みよりフェアで容易だと思っています。ここ4年ばかりの弦巻楽団が、演技講座で出会った人間との共同作業で本公演も為されていることからも、証明されていると思います。弦巻楽団以外でも舞台に立つようになった池江蘭や、佐久間泉真、塩谷舞。春に退団した深津尚未も、初の客演が決まった現団員の相馬日奈も講座に参加してました。というか、今の団員全員が講座出身ですね。
もちろん、もっともっと「プロっぽい」「スペシャリストっぽい」演劇人もいるでしょう。しかし、そうした演劇人が「表現者としての安定」と引き換えに失ったものを彼らは持っていました。だからこそ、弦巻楽団の舞台の魅力があったのだと言い切ります。
そうした道を選んだということです。
その方向は昨年今年とより濃い歩みとなりました。来年はもっとそこを堂々と進むことになるでしょう。
そうした蓄積が冒頭書いた
一つの言葉にはまとまりにくい『弦巻楽団』ならではの魅力
になっているんだと思います。
来年もどうかそれを愛し、信頼してくださることを祈ってます。
まずは演劇シーズン2018冬『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』。
そして演技講座「舞台に立つ」が3月に。こちらは過去最大の38名での作品作りになります。盟友の深浦、村上義典、遠藤洋平が出演もします。
安易な道ではもちろんなさそうです。
でも誰もそこで遊んでいる人間はいないようなので、思いっきり楽しみたいと思います。
今年もありがとうございました。
みなさんに、それぞれに、良いお年を。
来年もよろしくお願いいます。
弦巻楽団 代表 弦巻啓太
稽古も順調!!
演劇シーズン4演出家で対談しました。
弦巻楽団 大忘年会。
帰省した土屋梨沙がミカンと共に現れました。
まずはこれ!よろしくお願いします!!