先日25日、弦巻楽団#27『君は素敵』無事全11ステージを終演しました。おかげさまでどの回も満席に近く、のべ1000人近くのお客様に観て頂くことができました。ありがとうございます。毎回の暖かいカーテンコールに背中を押されるように、作品も輝いていくようでした。
10年前の脚本で今回『札幌演劇シーズン』と言う大きな催しに参加させていただいたこと、おかげさまで好評なこと(もちろん厳しい意見もありますし、自分でも「もっと」と思う箇所はあります)、上演台本が100冊近く(?)売れたこと、次への自信となりました。そして、自分自身の文法のあり方も。
作者としても好きな台本でした。それでも再演するにあたっては検証をする必要を感じ、弦巻楽団で開催している「演技講座」で2015年の暮れに上演しました。そこでの観客の反応と、参加してた講座生たちの(とても若い子達でした)魅力的な躍動感に確信を抱き、出品することにしました。初演は2007年です。はっきり言えば、作品の普遍性には自信がありました。もともと時流にこれっぽっちも掠ってませんので。流行りにも時代遅れにもならない作品だろうなあと思っていました。では何を検証したかったか?それは「今、本当にやるべきか」。これだけが懸念でした。そして、幸か不幸か2015年から2016年暮れにかけて、『君は素敵』を上演する必然性は僕の中で増す一方でした。
「弦巻さんの作品は役者が上手じゃないと成立しない」と、あるプロデューサーから言われたことがあります。もう15年近く前に。その時は全然意味がわかりませんでした。今はわかります。共感はしませんが、そう言われる理屈は分かるというか。
『君は素敵』は大したことは起こりません。物語が自分からうねることはなく、あくまで登場人物同士の関わりの中で広がったり、収束したり、波紋を重ね広げていきます。なので自分の戯曲の中でも相当役者の力が問われる戯曲だと思ってます。事件が起きてくれないからです。これと『スウィート・ソウル』かな(なので、これも再演していません)。問われるのは技術です。それも「上手そうにやる」ではダメです。「技術」に見えてはダメなんです。そこに人間としていること、魅力があること。そこにいる場を信じられること。それは「心を開く」なんて安易な言葉では片付けられない根深い認識の問題です。
稽古場で何度か「物語を引っ張ってはいけない」と役者たちに言いました。これは超細いパスサッカーだから、ミラクルシュートを放とうとしてはいけない、丁寧に、細かく、積み重ねること。安易に場面の盛り上がりに頼らないこと。意思を伝えること。言葉をしゃべること。けれど、弾む時は躊躇なく弾むこと。もし機会が訪れたら、躊躇わずにシュートすること。
(サッカーに詳しくないのに、ついサッカーに例えてしまう)
はっきり言って、そうした手法(文法)は札幌で上演されている殆どの演劇とは違うものです。自分では正統であり王道だと思ってもいるのですが、残念なことに異端のようです。なので、いつも客演の役者さんとは共有に時間をかけます。
今回出演した中心となる7人は、過去に弦巻楽団や弦巻演出を受けたことのある7人でした。これは大きかった。初めましての方がいないので、文法の理解がいつもより早かった。
土屋梨沙に至っては弦巻以外は前田司郎さんの演出しか受けたことがないんですからね。
劇団員の深津を筆頭に、弦巻楽団育ち(と、言ってしまおう)の池江蘭、2014年から楽団の舞台に立ち韓国ツアーまでした袖山このみ、『裸足で散歩』から楽団に立ち続けていた森田晶子と、楽団の文法に取り組むことに抵抗のないメンバーばかりで、だからこそ到達できた舞台だったと思います。
7人でしか出せないグルーヴのある舞台になりました。
「全員が輝いていた」。世辞かもしれませんが、そうした感想が本当に多かった。それでもその意見には、けしてミラクルシュートで引っ張ろうとしなかった成果が現れている気がします。
演劇シーズンのサイトで様々な方に感想を頂く『ゲキカン!』にもさらに感想がアップされてました。
そして、ツイッターで書かれた感想をこちらでまとめてます。
プロフェッショナルに近づけることは簡単です。え?本当です。簡単です。
でも形だけが整えられた「今、本当にやる必要性のない」舞台になるくらいなら、死んだほうがマシ…は言い過ぎです。
その意味をいつか誰かが真剣に分析してくれたらいいな、とはちゃっかり期待しています。
これでも弦巻なりに「札幌で生まれた名作を」という演劇シーズンの意義を深く深く背負っているつもりなのです。
改めて出演してくれた素晴らしい役者一人一人を紹介します。
特別出演の小林なるみさん(と、遠藤洋平)。
ずーっと弦巻楽団に、約1年半出演し続けてもらってますね。
最後に現れただけで客席から「こえ~」と言う声が上がったとかなんとか。
ベテランの凄みをはっきりと見せてくれました。
ワンデイ(?)ゲスト、通称「土下座ボーイズ」の6人。
エレキとは5年ぶり(!)だけど、全員近年の弦巻楽団を支えてくれた6名。
通常ゲストには「見せ場」と言った各々のパフォーマンスを披露してもらったりするのが弦巻の観た限り札幌演劇ではよくある形のようですが、一切そんな「美味しさ」のない今回の役に、誠実に取り組んでくれました。
彼らが最初に出ることでその後の展開も観客にイメージしやすくなったようです。ありがとう。
それぞれの謝罪の技の名前も一挙公開。
「社会人土下座(オール・フォー・カンパニー)」の村上義典、
「時間停止土下座(ブロークン・クロックワークス)」の深浦佑太、
「連続殺人土下座(シリアルキラー)」の小林エレキ、
「自爆土下座(スーサイド・スクワッド)」の遠藤洋平、
「天空落下土下座(アンドロメダ・スターフォール)」の能登英輔、
「号泣製菓土下座(ゲット・アップ・ルマンド)」の櫻井保一、
すっかり引っ張りだこの人気者になった刑事・晴役の池江蘭。
でも余計なことはしない、あくまで役に、状況に誠実であろうとする姿勢は失わないでいて欲しいです。なんだかいつの間にか引き出しが増えていたようで…本番終了後、みんなにネタを披露していたりしました。
今回とても難しい依頼人の希役だった袖山このみ。漫画的な、やり過ぎてしまいがちな「お嬢様」と言うポジションをきっちり果たしてくれました。最近はCMでも活躍しています。『君は素敵』の底辺の部分を一人でコツコツと支えてくれました。
唯一の劇団員で出演していた教師、胡桃沢役の深津尚未。作品でやるべきことをきちんと把握してくれて、弦巻楽団の方法論を手本となって稽古場で見せてくれました。演出としていくつか「仕掛け」を作品に盛り込んでいたのですが、深津が出てくれば後は大丈夫だろう。そんな計算が一番最後になる彼女の登場にはありました。
十数年ぶりに一緒に演劇をした四女・咲子役の土屋梨沙。中学一年生だったあの頃と変わらぬ天真爛漫さであっという間にみんなと溶け込んでいました。彼女のウサギのような躍動感がこの作品のテンポを作っていました。
「誰一人おいしい役じゃない」と知人の演出家に言われたこの『君は素敵』の中で、異彩を放つゆえに目立ち、ゆえに難しい三女・実を演じた森田晶子(大木凡人ではない)。稽古場でなかなか変化が現れず何度も何度も個人稽古が組まれたのですが、おもちゃの丸眼鏡をかけたら一発で解決しました。とほほ。とぼけた味で作品にパンチをつけてくれました。
作者にとっても謎の次女・明を演じた塚本奈緒美。たくさんのファンのいる女優さんですが、昨年の『果実』と言い今回と言い、そのひたむきさには座組の全員が驚嘆しました。それこそ「鼻に付く女」になりそうな明に、愛らしい人間性を付与してくれました。(上の写真は腹筋を伸ばしてるところ。)
そして、ほぼ出ずっぱりな長女・叶役の阿部星来。熱血漢で、リーダーシップを取ろうとするのに返って先走り怪我をする叶には初めから彼女しかいないと思っていました。稽古場でも、全員の精神的支柱として稽古を盛り上げてくれて、まさに『長女』でした。彼女の「トライすることが正解である」という役者としての姿勢にずいぶん助けられました。
7人、本当に良いチームでした。
特に四姉妹は役割や普段の掛け合いが本当に四姉妹のようで(責任感の長女、しっかり者の次女、独自の世界のある三女、天真爛漫で愛され上手な四女)、面白かった。
楽屋の散乱っぷりには腰を抜かしたけど…。
「登場人物の続きが見たい」という感想が本当に多かった。
「姉妹の掛け合いをずっと見ていたい」とかね。
7人には本当に感謝しています。
たくさんファンのいる彼らです。きっとこれからもいろんな舞台で活躍することでしょう。
アンケートや色んな感想で「~~さんが出ているので観に来ました」という言葉を聞きました。ありがたい話です。みんなが新しい観客を弦巻楽団と出会わせてくれました。
なので僕の野望は今後みんなが舞台に立った後「弦巻楽団にはまた出演しないんですか?」と言われるようになることです。「弦巻楽団の舞台に出てる~~さんが見たい」そんな言葉が出るようになると良いなあ。
美術も、照明も音響も、衣装も!好評でした。
全てが溶け合った幸福な公演でした。
セットの背後に棚に飾ってあったもの、確認できた方いたでしょうか?
船が飾ってあったんですね。
それと下手側の柱と梁。
この二つは演出としては少しばかりの隠喩を込めました。
柱と梁の意味合いは何人か分かったと言ってくれました。
物語が始まる冒頭と、咲子を除く三姉妹が佇む夜半、柱が十字架のように浮かびました。
では船は?
それはもちろん、「コウカイ」をしているのです。
7人に幸あれ!