6、「ワンダー☆ランド」誕生秘話
「ワンダー☆ランド」は、弦巻啓太が以前に所属した劇団「ヒステリック・エンド」の最終公演として書き下ろされた作品です。当時をよく知る札幌演劇人の方々に集まっていただき、特別対談を行いました。必読です!
弦巻啓太=元ヒステリックエンド代表。「ワンダー☆ランド」作・演出。
立川佳吾=元ヒステリックエンド劇団員。現在、トランク機械シアター主宰。
本間智子=元ヒステリックエンド劇団員。現在は、写真家としても活動している。
重堂元樹=演劇公社ライトマン主宰。オーディションに合格し、「ワンダー☆ランド」初演に出演。
長流3平=3ペェ団新☆さっぽろ主宰。客演として、「ワンダー☆ランド」初演・再演ともに出演。
ヒステリック・エンドとは…
高校演劇石狩支部の合同公演で知り合ったメンバーで96年にユニットとして旗揚げ。2000年から劇団化。弦巻啓太は旗揚げから2003年8月まで在籍。劇団化した際代表になる。
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弦巻 「ワンダー☆ランド」はどんな作品なのか伝わるようなページを作りたいなと思い、今回は、16年前の初演に出演した立川佳吾さん、本間智子さん、重堂元樹さん、そして唯一初演も今作も出演する長流3平さんに集まっていただきました。
長流 嬉しい。こういう集まりを持てるのはすごく嬉しい。
弦巻 すごいですね。山あり谷ありの16年経って。
長流 こうして見ると、本間さんはお芝居離れたけれど、それ以外の4人は団体主宰する側になっちゃったんだ!
立川 本当だ、すごい!
本間 私は、いまは写真家として活動しています。
弦巻 初演には、現在introの代表をしているイトウワカナもいたしね。
長流 16年…おそるべしだね!
弦巻 ちなみに、16年経って、世の移り変わりも激しいのですが…ほとんど台本は書き換えていません!!
本間 ぇえ~。あのままやるんだ…!
弦巻 当時のことについて、何か覚えていることってありますかね。
重堂 僕にとって「ワンダー☆ランド」は、大学外でのデビュー作だった。大学でお芝居を始めて、学外でもやってみたいなって思った時に、ヒステリックエンドのオーディションのチラシを見つけたんです。「主演募集」って書いてありました。
弦巻 そうそう。毛筆で書いたの。
重堂 わぁ、札幌ってやっぱこういうのあるんだなぁって思いました。
立川 騙されてんなぁ。
重堂 どうなるかわからないけれど、とりあえず受験はしとこうかと思ってオーディションに行きましたよ。
弦巻 チラシの下の方には「水着審査あり」とも書いた。
立川 最終的に水着は着ていないよね?
重堂 水着は当時持っていなかったんで、パンツでもいいですかって言って。わけわかんない偉そうな演出家(弦巻)がいて、もう言われるがままでしたよ。
弦巻 「特技を披露してください」とも言った。何やったか覚えている?
重堂 コサックダンス!
立川 それからしばらくの間見せてくれたよね。
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弦巻 今でこそ台本をパソコンで打ち込んでいるけれど、当時は手書きだったね。稽古のたびにちょっとずつ追加・修正した。
立川 それはまあ、過去も今もそういうのあるね。
長流 今となっては自分も書く身ですから、気持ちはとてもよくわかる。
重堂 台本はとにかく早くあったほうがいいなって学びましたよ。稽古のたびに台本が追加されるから、ジャンプの週刊連載を読んでいるみたいだった。
立川 稽古場として使っていた玉ねぎ倉庫に行くと、まず台本の直しを聞いた記憶がある。台本に赤ペンで「このセリフはこっちに移動」とか「このセリフなくして、ここに入れる」とか書き込んでいた。そんな風にやってたから理解している人とそうでないひとの差が激しくて。
弦巻 玉ねぎ倉庫行きましたね。
本間 ありましたね、懐かしい。
立川 出演者がたくさんいて、当時の稽古場に入りきらなかったんですよね。
弦巻 そしたら、出演者の知り合いのツテで、栄町の奥の方の玉ねぎ倉庫が、このシーズンは空いているからそこで稽古していいって言ってくれて。遠かったけれど、いくらでも声出してよかったし、あれ楽しかったな。
立川 トラクターの隣で。
弦巻 2階には農家さんの休憩所みたいな部屋があって、自分の番じゃないときはそこで自主稽古していたり。
重堂 悪い大人たちがそこでずっとタバコ吸ってたりしていたりね。1階での稽古は僕がずっとさせてもらっていたんで、2階の大人たちにニヤニヤしながら見下ろされていた。
立川 「させてもらっていた」って言い方がね!トゲがあるねぇ!
重堂 僕はロックンローラー・カズマの役だったんですけれど、3平さんとはあまり絡まなかった。でも、稽古のときとかよく気にしてくれていて。ずっと…噛み付いてくるんですよ。
立川 それは、言葉でってこと?
重堂 いや、物理的に!芝居のダメ出しも弦巻さんにいっぱいされて、とにかく一生懸命やるしかないと思って頑張っていたのに、僕のセリフになると3平さんがずっと噛み付いてくるんですよ!短い共演時間なのに!すごい気になるんだけど、それで芝居がおろそかになったら弦巻さんに怒られるし。
長流 えー、全然覚えてない。
立川 おかしな奴らばっかりだったな…。
弦巻 そうやって、みんなに揉まれたね!
重堂 僕は当時19歳で、弦巻さんをはじめ他の出演者はだいたい20代半ば〜後半くらい。なんか、すごい大人がいっぱいいるなって思ってた。でも、いま振り返ると20代そこそこのお兄ちゃんお姉ちゃんたちだったんだなって考えると、不思議な気持ちになる。
弦巻 俺で27歳だからね。3平さんも30代。
長流 さんじゅう…5?4?3?
重堂 そのときの3平さんは、いまの僕より年下ってことか。
立川 正直、16年前なんでどれだけ覚えているかわからないですよ。
弦巻 今日、初演を観てくれた方とお話したんですけれど、当時の感想を語ってくれました。特に、立川が演じた役(白鳥ゼロ)と、村上ロックさんはトラウマになったって。
立川 えー、トラウマ!?なんで!?
長流 すごかったよね、村上ロック!
※村上ロック:現在東京で怪談師として活躍。当時はyhs所属。ヒステリックエンドへの出演は「ワンダー☆ランド」で2回目だった。
弦巻 初演で大活躍した村上ロックさんの役を誰がやるか…必見です!
長流 すごいエネルギーのある作品だったことを覚えている。色んな人が色んな引き出しを引いて作ったお芝居だった。今回もそのエネルギーは変わっていないよね。
弦巻 本間さんは、作品について何か覚えていることありますか。稽古で苦労したこととか。
本間 私はたい焼き屋のおじさんの役で、すごいそれが辛かった。おじさんってどうやるんだろうって!だいたいのおじさんは太っているから大きく動けばいいのかな…って。
重堂 おじさんはだいたい太っているって…。
立川 まあ、でも、
弦巻 間違いじゃないかもね!
長流 あと大変だったのは、1人何役もやる人が多いから、着替えが間に合ってなかったんだよ。舞台上だけじゃなく、舞台裏もわやだったもん。
弦巻 初演のときは、衣装さんが4人もいたんだよね。着替えを手伝う人が絶対必要だった。
本間 上下(かみ、しも)の移動が多く、舞台袖も狭かったから本番中すごい大変だったの覚えてる。
重堂 上演時間2時間30分、みんなずっと走り回っていたね。とにかく急いでた。上演中に落ち着いている人なんて1人もいなかった。
弦巻 舞台裏でもゆっくりなんてしていられなかったね。
重堂 当時の熱量は、いまの札幌演劇にはあまり見られないかもしれない。いまの芝居は、どれを見ても一定以上の水準というか、みんなちゃんと作っている。でも逆に、良くも悪くも「やべえな、こいつら」って思うことは少なくなったかもしれない。
本間 平均以上、というかね。
重堂 当時のめちゃくちゃな熱量、ハチャメチャなパワーがそのまま残っている作品だと思うので、観に行くのが楽しみです。
弦巻 ネットの影響もあるかもしれないし、航空運賃が安くなって東京の芝居を頻繁に観られるようになったりして、あまりヘタ打たなくなったというか。最低限の質や技術を知るようになり、失敗しない道のりに沿うようになったのかもしれない。でも、その道では失敗はしないかもしれないけれど、無茶したりとか、一か八かの賭けに出たりとかはしなくなっちゃう。面白いものは未知なところにあると思うし、それはまだ誰もやっていないこと。いま読み直しても、そのハチャメチャさに、よく書いたな自分って思うよ…。
重堂 弦巻さんの公演は、過去作が多いじゃないですか。ヒステリックエンドを辞めて弦巻楽団になってからも、昔の作品を再演することが多い。再演できる作品がこれだけあるっていうのはすごいなって思います。
長流 そうだね。定番ストックがあるのはすごいと思うよ。
弦巻 ありがとうございます。…自分しか言わないから自分で言っちゃうんだけれど、色んな人から「あなたの最高傑作は何ですか」と聞かれたら、「ワンダー☆ランド」って答えてきた。それだけこの作品はすごいと自負していたんだけれど、それを16年再演しないってすごくない!?
一同 (笑)
長流 4、5年前から、「ワンダー☆ランド」再演するときはよろしく、って言われていたよ。
弦巻 チャンスはずっとうかがっていたんだよね。この16年で色んな人と出会い、この人たちとならやれるぞと思い、再演に踏み切った。
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重堂 台本を書き直さなくても良いくらい、良くも悪くも今の日本は変わっていなくて、16年前のことも、今の時代のことも描いている作品だなって思います。
長流 弦巻作品ってそういうの多いよね。
本間 普遍性があるっていうかね。
弦巻 そう言ってもらえると嬉しい。「センチメンタル」という作品以降に意識したことがあって、1つは、物語を強くしようということ。それ以前の作品は、物語がとっちらかったものも多くて、いかに物語を物語らしく見せないかということを心がけていたんだけれど。もう1つは、作品を通してその時代の「答え」を残すのではなく、「問いかけ」を残そうと思った。時代は勝手に流れていても、問いかける形でいつでも成立するような作品作りを意識した。今だから、このメッセージを打ち出します、ではなくて、今ならこの「問いかけ」に、どんなメッセージが時代の方から返ってくるかを意識して書いた。24歳のときに…(笑)
重堂 当時は、問いを投げかけていたのではなく、「投げつけていた」の方が正しいかもね。
弦巻 ぶつけていた。
長流 大群像劇だよね。「ワンダー☆ランド」。
重堂 いま上演するってのが良いと思う。内容もそうだけど、こういう(熱い)空気感を持った芝居を久しく観ていないから、今の若い人たちがこういう劇を観て、どういうことを感じるのかはすごく気になる。
弦巻 リアリズムで作っていないからね。それよりも、「舞台上でどう生きるか」というか。登場人物たちは、中にはハッピーな人もいるけれど、報われない不幸な人が多い。それでも、彼らを肯定できるような強引さを持った作品にしたいなと思った。
弦巻 再演の「ワンダー☆ランド」に期待すること、楽しみにしていることなどありますか。
立川 弦巻さん、様々な企画を通して色々な人と出会っているじゃないですか。どういう人が集まるかによってまた違った面白さがあるので、楽しみです。いつか、地域ごとの「ワンダー☆ランド」も観てみたいな。札幌の「ワンダー☆ランド」、苫前の「ワンダー☆ランド」、函館の「ワンダー☆ランド」とか。そして、同じ日に公演!!そういう力のある作品ですよ。
長流 これだけ引っ張ってきた作品だから、出演者もみんな有名どころというか、知っている人ばっかりなのかなって思っていたけど、半分知らない人だったからすごい驚いた。すごく新鮮。
弦巻 弦巻楽団演技講座で演技をはじめた人とか、演劇シーズンを観て演劇をはじめた人とかもいて。そういう人たちが演劇シーズンに出る道を一つ作りたかったというのもあった。技術面では、もちろんキャリアのある人にはかなわないかもしれないけれど、弦巻楽団の作品の作り方だったり、「ワンダー☆ランド」の作品としてのクオリティとしては、彼らとの化学反応によって良いものができるんじゃないかと思っています。変な話、技術だけでこなされても…ってタイプの作品だし!
重堂 初演のとき、大人の人たちがどう評価するんだろうって思ってました。演劇を続けてきたおじさんおばさんたちが、若者のやんちゃな芝居を観て。
弦巻 そのやんちゃを演劇シーズンで上演できるっていうのが、演劇シーズンの懐が深いなって思うところだったり。
長流 当時の空気感を出せるっていうのは、シーズンの良いところだよね。16年ってすごいよ、やっぱり。