4、緑の横長チラシはいかにして出来上がったのか!?
インパクトのある緑色のチラシをデザインしたのは、関西で活動する劇団「彗星マジック」の勝山修平さん。長さおよそ60cmの横長チラシに込められた想いとは!?出演者の写真撮影の様子と一緒にお楽しみください。
(文章=弦巻啓太)
今回のチラシ、ありがたいことにあちこちで好評の声をいただいてます。
今までもA4だけど開くとA3というチラシは作ったことがありました。しかし今回は「横に」開くという、変形A3です。その広げた時の迫力もさることながら、出演者がギュウギュウで登場する表面そのものの熱量と、溢れ出る勢いにご好評を頂いているようです。
その分、想定以上の予算がかかりました…。知らなかったのですが、この場合の変形A3というのは「A3」というカテゴリーにならないのです。印刷会社にもよりますが。今回の場合「A2サイズの紙を二つに切り分ける」というカテゴリーになるようです。つまり、印刷としては「A2」になります。そして一般的なチラシ印刷は「A3」までです。「A2」はチラシではなくポスター印刷になるそうで…この時点でいつもよりかなり高くなりました。更に二つに裁断する加工賃、それを二つ折りにする折り加工賃、合わせたところ…いつもの4倍以上(!!!)の印刷費になりました…。
そのくらい迫力のあるチラシにしたかったのです。
今回の『ワンダー☆ランド』に向ける自分の想いは並並ならぬものがあります。
初演の時に負けない、それ以上の勢いと熱い想いをチラシに込めたい。そう思っていました。
初演は16年前、当時所属していた劇団「ヒステリック・エンド」を卒業する総決算として上演されました。チラシは当時お願いしていたデザイナーさんと何度もディスカッションを重ね、アメコミ風にまとまっていきました。
初演(Theater Unit Hysteric End 第15回公演、2003年)のチラシ
裏面には作品解説だけじゃなく、実は背景にも作者である自分からのメッセージポエムが掲載されてます。殆ど読める仕様にはなってませんが…。今では自分でもなんて書いたか判読不能です。それは一種の宣言文でした。
表面には出演者が全員登場しています。
introのイトウワカナ、演劇公社ライトマンの重堂元樹、トランク機械シアターの立川佳吾が写っています。探せば(探さなくても?)見つけることができるでしょう。そして今回の再演にも同じ役で出演してくださる長流3平さん(3ペェ団 新☆さっぽろ)が登場しています。
作品に自信はあれど、この「ワンダー☆ランド」はずっと再演されずに来ました。
それは作品のスケールが大きいのと、出演者が多いからです。初演も20人の出演者がおり、そのうち10名が劇団員、10名は客演の俳優でした。これまで弦巻楽団の団員は多い時でも自分含めて5人でした。俳優は多くて3名。それがこの作品を選べなかった要因でした。
しかし、様々な条件が重なり、これまでの活動で沢山の信頼できる俳優達と出会いました。
弦巻楽団演技講座でも、ユニークな個性や輝く存在に出会いました。
今ならやれる。今しかない。
そう考えて再演に踏み切りました。
しかも幸運なことに、声を掛けた殆どの方が出演を快諾してくれました!
これはすごい。すごいことだ。これまでの楽団を支えてくれたオールスターズです。
この面子に込めた熱量と想いが伝わるようなチラシにしたい。初演の猥雑さやパワーに負けないくらいの…!
一昨年、昨年と弦巻楽団はツアーで大阪公演を行いました。その時にプロモーションや本番の劇場で沢山の方とお会いしました。その中に大阪で活動する彗星マジックの勝山修平君がいたのです。
デザイナーとしても活躍する勝山君の手がけたチラシ達を見て、
「この人しかいない…!!!」
そう天啓が訪れたのです。
いきなりのアタックに戸惑いもあったと思いますが、勝山君は快諾してくれました。
弦巻が提案したコンセプトは「バトル」。全員が何かと戦っている、戦争映画のような、ヒーローショーのようなチラシ、がイメージでした。勝山君は任せてくださいと了承し、アドバイスを沢山くれました。
問題は作成方法です。
出演者の写真を使いたいと思ってはいましたが、勝山君に札幌に来て写真のディレクションをしてもらうのは難しい。なので札幌で撮った写真を勝山君に送り、それをコンセプトに沿ってデザインしてもらう、という手法が選ばれました。自分たちで写真を撮れるのか。
不安もありましたが、撮影日はやってきました。
とにかく無闇なまでに写真を撮りました。闇雲に撮り過ぎて、どれを使ってもらうのが良いかのちに頭を悩ませるくらい撮りました。思わぬポーズだけじゃなく、出演者の意外な一面が見えたりも…。実は配役が決まりきっておらず(なんせ50役!)、その場のノリや勢いで衣装を着てポーズや表情を即興的に決めていきました。
笑いが絶えないどころか、汗まで飛び散る現場でした。
何をやっても決まる3平さん。
使われなかったけど遠藤洋平の奇跡的なジャンプ。
弦巻楽団に出るたびになぜか衣装で用意される白衣を手に「また白衣か…」とこぼしたの村上義典。
逆に何を着ても決まらない(?)けれどありえない格好が一番ハマる井上嵩之。
そんな宝石ともクズとも分からない大量の写真を勝山君に送りました。
さあ、どうなって戻ってくるか…!!
そんな訳でどんなデザインになって戻ってくるかとワクワクして待っていました。
いくら過去の制作物で信頼していても、人間同士の共同作業は難しいものです。「いつものあなたのように!」と言って頼んだとしても(そんな頼み方は殆どしませんが)、頼まれた当人が「いつもの自分…」と考え込んでしまったり、こちらの言葉のチョイスが的確でなく、すり合わせ不足でイメージから遠く離れてしまうことはままあります。
良かれと思って使った言葉が逆方向に響いたり、説明が過剰過ぎておかしな方向に飛躍していったり、
それこそが共同作業の醍醐味ですが、ゼロから新しいものを作るというのはそのくらい困難なことです。二人とも目隠ししながら一緒にお寿司を握るような…例えは別にいいですね。
そんな訳で不安も少しありましたが、勝山君から届いたチラシデザインはそれはそれは素晴らしいものでした。
まさに!という言葉を10回連呼したいほど、今回の『ワンダー☆ランド』のイメージにピッタリでした。
迫力があって、勢いがあって、だけどどこか親しみ易さもある、「クール」ではなく「ポップ」に寄せてほしいという弦巻の希望をズキュンと撃ち抜くデザインでした。
そこからは細かい調整や修正が繰り返し行われました。
弦巻の「こうして欲しい」や「ああして欲しい」に辛抱強く、勝山君は応えてくれました。
しかし。
何かが引っかかっていました。何かは分からないのですが、何かが引っかかっている。ずっとそれが気になってました。なんだろう。このモヤモヤは。
それは何度目かの修正を行ったチラシを確認してる最中に、靄が晴れるように気づきました。
相馬日奈がいない。
何度見直し、隅々まで見てもどこにも相馬はいませんでした。
わはははは。
どうやらたくさん勝山君に出演者の写真を送った時、漏れていたようです。
急遽一人増やしてもらうことになりました。
わはははは。危ない危ない。
僕から具体的な注文としては一点、
「井上君をあまり目立たない感じにして欲しい」という井上君本人にも失礼な(?)オーダーがありました。撮影の時の出で立ちがあまりにインパクトが強かったので、ちょっと控えめにする位がちょうど良いんじゃないかと思ったのです。
勝山君の返信は明快でした。
「どこに配置しても目立ちます。」
たたた、確かに!
今回のチラシと、演劇シーズン公式パンフレットの弦巻楽団のページをぜひ見比べて下さい。勝山君は公式パンフ用にも同じ写真、素材でデザインをしてくれました。そこでは人物の配置がチラシとは微妙に違っています。画面の大きさによって良い形を追求してくれました。
「どこに配置しても目立ちます。」
そう告げた勝山君が井上嵩之をどこに配置したか、ぜひ2種類の『ワンダー☆ランド』で見比べて下さい。
演劇シーズン公式パンフレット用のデザイン
実物が届いた時に、ああ、彼に頼んで本当に良かった。そう思いました。
16年間抱き続けたイメージがくっきりと形になってました。
なんというか、武器を手にした気になりました。
この武器で戦える。そう実感しました。
『ワンダー☆ランド』のキャッチコピーは16年前と同じです。
僕たちの国は戦争をしている
これは特別なコピーで、実は2007年の『スタークロスド』でも使用しています。
あるテーマで舞台を作る時、それはコピーというか、戦闘の狼煙のように、あるいは鬨の声のように、僕の心に浮かび上がります。
僕たちの国は戦争をしています。
大きな意味でも、小さな意味でもそれは戦争と言っていいと思います。
だから戦わなくては。
愛のために。平和のために。自分のために。あなたのために。
未来のために。現在のために。過去のために。
負けないように。勝ってしまわないように。そのこだわりに絡め取られないように。
魂を奪われないように。魂を奪われてしまわないように。
世界は素晴らしい!そう言いつづけるために。
勝山さんへのQ&A!
チラシをデザインした彗星マジックの勝山修平さんへ、いくつかの質問をしてみました。
Q1、依頼があった時どんな風に思いましたか?
色んなジャンルのチラシつくってて良かったなぁと。
Q2、台本を読んで湧いたイメージは?
にぎやかで攻めてる台本だな、と。
舞台やテレビやデザインでは上手(舞台だと客席から見て右側のこと)から下手(舞台だと客席から見て左側のこと)へと進んだり、下手を向いていたりすると様々な理由から(良かったら検索してください)観ている側が安心感、安定感を得られるという先人が見出した法則がありますので、攻めた中にも気持ち良く見て欲しいという思いからデザインの流れを、一部の役者さんを左右反転してでも下手向きに流れるようデザインしよう、と思いました。
Q3、送られてきた役者の写真を見てどう思いましたか?
様々なキャリアの方がいらっしゃると思うのですが、どの方も愚直なまでに何かの対象を見出した目をしていたので、暑苦しく、格好つけてないところが格好いいなと思いました。
Q4、制作中苦労した点、狙った点などは?
台本を読んでイメージしたこと、最初に弦巻さんから「彗星マジック(僕の劇団です)の「ヒーロー」のようなチラシがドンピシャのイメージなんです」的な事を仰っていたので、そこから奇をてらわないよう、変な欲目やオリジナリティを出さないよう心がけました。苦労した点は、人物配置、パースでしょうか。
Q5、完成したチラシを手にした感想は?
実物はマフラータオルみたいだと思いました。
印刷された色が派手めになっていたら嫌だなぁ、と思っていたのですが(印刷所のインクの都合でデータとは違う色で印刷されることがままあるのです)、落ち着いた色だったので安心しました。
マフラータオルみたいだと思いました。
Q6、公演に期待することを教えて下さい!
チラシを見て来ました、イメージ通りでした、イメージしたもの以上でした、いい意味で裏切られました等、宣伝美術としてはチラシを起点として何かとポジティブな感想をもらえることを期待しています。
何よりも大盛況のうちに終わりますように、そして、また北海道の演劇のチラシの仕事に繋がりますように、と、願うばかりです。